トランス脂肪酸とは?工業由来と自然由来の違いも解説

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食用油脂には様々な脂肪酸が含まれていますが、その中の1つにトランス脂肪酸と呼ばれるものがあります。

トランス脂肪酸は健康に悪い成分として有名ですが、具体的にどのような成分なのか、摂取するとどのような影響があるのかなど、気になる方もいるのではないでしょうか。

そこで本記事では、トランス脂肪酸の概要や種類、摂取するとどのような影響があるのかなどについて解説していきます。

トランス脂肪酸について知りたい方には役に立つ内容となっていますので、ぜひ参考にしてみてください。

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トランス脂肪酸とは?

トランス脂肪酸とは、炭素間にトランス型の二重結合を1つ以上有する不飽和脂肪酸のことを指します。

不飽和脂肪酸とは炭素間に二重結合(不飽和結合)を有する脂肪酸のことで、トランス型は二重結合の結合様式の1つです。炭素間の二重結合にはシス型とトランス型があるのですが、このうち二重結合を形成する炭素に結合した水素が互いに違う向きのものをトランス型、同じ向きのものをシス型といいます。下の図で言うと右側の構造がトランス型です。

天然の不飽和脂肪酸についてはほとんどがシス型となっており、トランス型の存在率は僅かで、トランス型に関してはほとんどが人工的な処理で生成していると言われています。

トランス脂肪酸の種類

トランス脂肪酸は何か1つの特定の物質を指していると思われている方もいるかもしれませんが、実際にはトランス脂肪酸は以下に記すように複数の種類が存在します。これらの脂肪酸を総称して「トランス脂肪酸」と呼んでいるのです。

トランス脂肪酸の例(一部)

ちなみに、コーデックス委員会ではトランス脂肪酸の定義を以下のように定めています。

少なくとも1つ以上のメチレン基で隔てられたトランス型の非共役炭素-炭素二重結合を持つ単価不飽和脂肪酸及び多価不飽和脂肪酸の全ての幾何異性体

出典:コーデックス委員会栄養表示に関するガイドライン CAC/GL2

メチレン基とはメタン(CH4)から水素原子が2つ取り除かれた官能基(-CH2-)のことで、共役とは二重結合が1本の単結合を隔てて隣接している状態を指します。共役二重結合を持つものとしては、上記の例の中ではルーメン酸が該当します。

コーデックス委員会の定義では、トランス脂肪酸は非共役の炭素間二重結合を持つ不飽和脂肪酸と定義されているので、共役二重結合を持つ不飽和脂肪酸(ルーメン酸など)はトランス脂肪酸の定義から外れます。しかし、一般的には共役・非共役に関係なく、炭素間に1つ以上のトランス型二重結合を有する不飽和脂肪酸は全てトランス脂肪酸とされているのが現状です。

ルーメン酸はn-6系多価不飽和脂肪酸(ω-6系多価不飽和脂肪酸)として知られるリノール酸の異性体です。ルーメン酸のように、共役二重結合を持つリノール酸の異性体は共役リノール酸(conjugated linoleic acid, CLA)と呼ばれます。

トランス脂肪酸の分類と生成工程

トランス脂肪酸は大きく分けて、工業由来のもの自然由来(反芻動物由来)のものが存在します。

工業由来のトランス脂肪酸は主に植物油に由来するもので、部分水素添加で硬化油を製造する際や、脱臭操作で200℃以上の高温処理を行った際に生じます。原料をヘキサンで溶剤抽出した場合には、溶剤を除去する際の高温加熱で生じる可能性もあるでしょう。

部分水素添加とは、Niなどの触媒を用いて高温・高圧で不飽和脂肪酸に水素を付加する反応のこと。低融点の不飽和脂肪酸(二重結合の部分)に水素が結合することで、高融点の飽和脂肪酸が得られ硬化油となります。

また、反芻動物由来のトランス脂肪酸は、反芻動物の第一胃(ルーメン)の中で微生物により多価不飽和脂肪酸から生成され、バターなどの乳製品や肉などに含まれています。(生成メカニズムについてはこちらの文献を参考)

反芻動物とは草食動物のうち4つの胃を持ち、口で咀嚼し飲み込んだ食物を再び口に戻して再咀嚼する動物のこと。牛や羊、ヤギなどが該当する。

工業由来と自然由来のトランス脂肪酸は互いに異なるものが多く、代表的なものについてはそれぞれ以下の通りです。

由来トランス脂肪酸の種類炭素数:二重結合
自然由来(反芻動物由来)パルミトエライジン酸C16:1(ω-7)
バクセン酸C18:1(ω-7)
ルーメン酸C18:2(ω-7)
工業由来
(植物油由来)
エライジン酸C18:1(ω-9)
リノエライジン酸C18:2(ω-6)

このように、トランス脂肪酸は工業由来と自然由来とでは全く異なったものとなっています。

バクセン酸やルーメン酸のように、構造式のC末端から数えて7番目の炭素に最初の二重結合があるものをω-7脂肪酸といいます。天然に存在するω-7脂肪酸の代表例としては、パルミトレイン酸やバクセン酸などがあげられます。

ちなみに、硬化油や反芻動物脂肪中のトランス脂肪酸の代表的割合について、C18:1の場合はそれぞれ以下の通りとなっています。

二重結合の位置(C末端から)硬化油牛乳脂肪羊乳脂肪ヤギ乳脂肪
16(n-2)16~8810
15(n-3)24~666
14(n-4)9~12889
13(n-5)6~778
12(n-6)8~136~1079
11(n-7)バクセン酸10~2030~504737
10(n-8)10~206~13910
9(n-9)エライジン酸20~305~1056
6~8(n-10~n-12)14~182~923
n-132<1<1<1
n-141<1<1<1

【参考:Prechtら, Lipid, 36, 827 (2001). Wolffら, Lipids, 35, 815 (2000), Seppanenら, J. Cromatog. Biomed. Appl., 687, 371 (1996)】

硬化油の場合はエライジン酸が最も多く、反芻動物脂肪(牛乳脂肪、羊乳脂肪、ヤギ乳脂肪)ではバクセン酸が最も多いです。エライジン酸については有害性の報告があるものの、バクセン酸については後述の通り害は無いとされています。

トランス脂肪酸の影響

一般的に工業由来のトランス脂肪酸は体に悪く、自然由来のトランス脂肪酸は無害と言われています。これは上記で説明した通り、由来によって含まれるトランス脂肪酸の種類が異なることが大きな理由です。

ここでは、工業由来と自然由来のトランス脂肪酸について、摂取した場合の影響をそれぞれ解説していきます。

工業由来のトランス脂肪酸の場合

工業由来のトランス脂肪酸については、様々な疾患との関連性が指摘されています。

例えば、欧米で行われた4つのコホート研究(1996年アメリカ1997年フィンランド2001年オランダ2005年アメリカ)では、トランス脂肪酸を多く摂取していた人で冠動脈疾患が増加することが示されました。

冠動脈疾患に関するコホート研究のメタアナリシスでは、トランス脂肪酸の摂取量増加による冠動脈疾患の相対リスクは1.23(1.11~1.37)となっており、トランス脂肪酸摂取量のエネルギー比2%の増加は23%の冠動脈疾患の増加をもたらすことが推定されています。

また、1995年のオランダのワーゲニンゲン農業大学の報告では、トランス脂肪酸はLDL-コレステロールを増加させ、HDL-コレステロールを減少させることが示されています。1999年のアメリカのハーバード公衆衛生大学の報告でも、トランス脂肪酸の摂取量増加はLDL/HDL-コレステロール比の変化を直線的に増加させ、その増加量は飽和脂肪酸の約2倍多いことが示されています。

【出典:食品安全委員会 新開発食品評価書 食品に含まれるトランス脂肪酸

さらに、2005年のアメリカのハーバード公衆衛生大学の報告では、トランス脂肪酸の摂取量が多いほど、炎症マーカーとして知られるCRP(C反応性タンパク質)の濃度が高くなることも示されています。

【出典:食品安全委員会 新開発食品評価書 食品に含まれるトランス脂肪酸

そのほか、トランス脂肪酸の摂取はアルツハイマー病や糖尿病、肥満、高血圧、肝機能障害、不妊症、がんなどのリスクを高めると言われており、極力摂取は控えた方が良いと言えるでしょう。

自然由来のトランス脂肪酸の場合

自然由来(反芻動物由来)のトランス脂肪酸については、摂取しても害は無いと言われています。

実際、工業由来のトランス脂肪酸摂取で懸念される冠動脈疾患についても、食品安全委員会の2012年3月 新開発食品評価書では、反芻動物由来トランス脂肪酸の摂取との関連性は低いとされています。

【出典:食品安全委員会 新開発食品評価書 食品に含まれるトランス脂肪酸

自然由来トランス脂肪酸の健康効果

実は、自然由来のトランス脂肪酸にはいくつかの有益な効果が報告されています。

例えば、共役リノール酸(CLA)として知られるルーメン酸には抗がん作用が報告されており、心血管疾患のリスク低減の報告や抗炎症作用の報告もなされています。

バクセン酸に関しても、Δ9-デサチュラーゼによるルーメン酸への変換を介して抗がん作用が報告文献1文献2)されており、ルーメン酸と似たような効果が期待できると言えるでしょう。

ルーメン酸は反芻動物の第一胃で微生物によりバクセン酸とともに生成されるほか、哺乳類の組織でΔ9-デサチュラーゼによるバクセン酸の変換で生成されます。ルーメン酸は乳製品中の全CLA量の85~90%を占めると言われています。

このように、自然由来のトランス脂肪酸は摂取しても害はなく、むしろ健康効果が得られる可能性があると言えます。

ちなみに、共役リノール酸についてはこれら以外にも抗肥満作用や抗糖尿病作用、血圧上昇抑制作用など、様々な生理機能が報告(文献1文献2)されています。

共役リノール酸のうち、C10の位置がトランス型になる異性体については少し懸念のある報告(文献1文献2)もされています。有益な生理作用も報告されてはいるものの、天然では微量しか存在しないものなので、少し注意が必要かもしれません。

まとめ

健康に悪い成分として知られている「トランス脂肪酸」。

トランス脂肪酸には工業由来(植物油由来)のものと自然由来(反芻動物由来)のものがありますが、工業由来のものについては様々な疾患との関連性があるため、極力摂らない方が良いでしょう。

自然由来のトランス脂肪酸については害は無いと言われており、いくつかの報告ではむしろ健康効果があるとも言われているので、摂っても問題はないと考えられます。

トランス脂肪酸ではバターとマーガリンの話がよく持ち出され、バターのトランス脂肪酸が気になるという方もいるかもしれません。しかし、バターのトランス脂肪酸は自然由来のものなので、摂ってもあまり心配はないと考えられます。一方でマーガリンのトランス脂肪酸は工業由来のものなので、摂るのであればマーガリンよりもバターの方が良いと言えるでしょう。

ただ、牛乳やチーズを電子レンジで加熱すると共役リノール酸が減少し、トランス脂肪酸異性体であるエライジン酸が増加するという報告もあるので、乳製品を電子レンジで温めることは控えた方が良いかもしれません。

乳製品以外でも、電子レンジのマイクロ波で加熱することには様々な有害性が報告されているので、電子レンジの使用はできるだけ控えた方が賢明と言えるでしょう。

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