輸入果物に使用されている「チアベンダゾール(TBZ)」。
食品添加物の防カビ剤として使用されている一方、危険性を指摘する報告も多くなされています。
本記事では、チアベンダゾールの概要と危険性について解説していますので、興味のある方はぜひ最後までご一読ください。
チアベンダゾールとは
チアベンダゾール(TBZ)とは、メチルベンズイミダゾールカルバメート(MBC)系の防カビ剤です。
チアベンダゾールはアメリカのメルク社が開発した薬剤で、真菌細胞内において微小管形成中のβ-チューブリンに結合し、有糸分裂を阻害することで抗カビ作用を発揮すると考えられています。
日本では1972年に農薬として認可され、甜菜の褐斑病(葉に斑点ができる病気)などに使用されていましたが、2006年に農薬としての認可は失効しました。
その後、1978年に食品添加物の防カビ剤として認可されましたが、現時点で農薬(殺菌剤)としては認可されていません。ちなみに、食品添加物として認可された当時、日本とアメリカの間には貿易摩擦が生じており、認可の背景にはアメリカの影響があったと言われています。
チアベンダゾールは主に輸入果物に使用されており、輸入過程で果物にカビが生じることのないよう、ポストハーベスト(収穫後の農薬使用)として使用されます。なお、日本ではポストハーベストは禁止されているため、国産の果物にチアベンダゾールが使用されることはありません。
使用する際はその対象によって異なりますが、ワックスに混ぜて使用されるほか、スプレーする形でも使用されます。
チアベンダゾールの使用基準
チアベンダゾールはかつて農薬として認可されていたこともあり、接触や摂取によって中毒症状を引き起こす恐れがあることから、食品添加物として使用する際には厳しい基準が設けられています。
チアベンダゾールを食品添加物として使用する場合には、その対象は柑橘類とバナナに限られます。また、その使用量に関しても、柑橘類は10ppm(0.010g/kg)以下、バナナは3ppm(0.0030g/kg)以下、バナナの果肉は0.4ppm(0.0004g/kg)以下と厳しい基準が設けられています。
そして、チアベンダゾールを使用している果物については、食品表示法によってその旨を分かりやすく記すよう、表示義務が課せられています。袋売りの場合はシールなどに、バラ売りの場合は値札や陳列棚などにチアベンダゾールが使用されている旨の表示が必ず必要です。
チアベンダゾールの危険性
チアベンダゾールは推定致死量が20g~30gとされており、高い毒性を有することから、危険性の報告も複数なされています。
例えば、東京都立衛生研究所の報告によると、マウスに体重1kg当たり0.7~2.4gのチアベンダゾールを毎日経口投与したところ、お腹の中の子どもに外表奇形と骨格異常(口蓋裂、脊椎癒着)が認められました。
また、妊娠ラットに体重1kg当たり1gのチアベンダゾールを1回経口投与しただけでも、子どもに手足と尾の奇形が見られたとの報告がなされています。
これらのことから、チアベンダゾールには催奇形性の危険性が考えられています。
さらに、厚生労働省の安全データシートによると、危険有害性情報の箇所に「生殖能または胎児への悪影響のおそれ」、「腎臓の障害」、「長期にわたる、または、反復ばく露により腎臓、甲状腺、造血系の障害のおそれ」との記載があります。
このように、チアベンダゾールは複数の危険性が報告されている物質であることから、できるだけ避けた方が良い添加物と言えるでしょう。
チアベンダゾールは果肉まで浸透するのか
チアベンダゾールがポストハーベスト時に接触するのは果物の果皮になりますが、内側の果肉まで浸透するのかは気になるところです。
2018年の北海道消費者協会の報告によると、メキシコ産のグレープフルーツ、アメリカ産のレモン、オーストラリア産のオレンジを調査した結果、以下のように果肉からもチアベンダゾールが検出されたことが確認されています。
- グレープフルーツ(メキシコ産) 果肉:0.03ppm 果皮:2.06ppm 全果:0.60ppm
- レモン(アメリカ産) 果肉:0.03ppm 果皮:1.01ppm 全果:0.40ppm
- オレンジ(オーストラリア産) 果肉:0.03ppm 果皮:1.13ppm 全果:0.37ppm
なお、この調査では他の防カビ剤としてイマザリルとフルジオキソニル、農薬としてアゾキシストロビンを含む53種類の農薬も検査しており、それぞれ以下のような結果となっています。
引用:北海道消費者協会 「北のくらし」No.488(6ページ)
また、2019年の岐阜県保健環境研究所の報告によると、2015年度から2018年度の実態調査で、アメリカ産のオレンジ、イスラエル産のグレープフルーツ、アメリカ産のレモンの防カビ剤残留量を測定したところ、アメリカ産レモンの果肉から0.02ppm(mg/kg)のチアベンダゾール(TBZ)が検出されたことが確認されています。
引用:岐阜県保健環境研究所 「輸入かんきつ類およびバナナの防カビ剤の分析法と残留実態調査(2015-2018年度)」(図7)
このように、チアベンダゾールなどの薬剤は果皮に比べるとその量はわずかではあるものの、果肉にも浸透していることが確認されており、これらの薬剤が使用された果物の摂取には注意が必要と言えるでしょう。
チアベンダゾールの除去方法
チアベンダゾールの除去方法については以下のような報告があります。
2018年の北海道消費者協会の報告によると、オーストラリア産のオレンジの皮に対し、「水洗い」「洗剤洗い」「塩もみ」「ゆでる」の4つの方法を試したところ、「ゆでる」で90%、「塩もみ」で79%、「洗剤洗い」で49%、「水洗い」で38%チアベンダゾールを除去できたことが確認されています。
また、この報告では同じ方法でイマザリルの除去率も確認されており、チアベンダゾールと合わせてそれぞれ以下のような結果となっています。
引用:北海道消費者協会 「北のくらし」No.489(7ページ)
どちらの防カビ剤に対しても「ゆでる」が最も除去率の高い方法であったことから、輸入果物の果皮を使用する場合には下ゆでをしておくと良いかもしれません。
また、この調査から、いずれの方法においてもチアベンダゾールはイマザリルよりも洗浄で除去しやすいことが伺えます。
ちなみに、この調査で行われた洗浄方法の具体的な手順はそれぞれ以下の通りです。
- 水洗い:水 2L(15℃)に2分間浸し、スポンジで水をつけて2分間こすり洗いをする。その後、流水で30秒すすぎ、水分をふき取る。
- 洗剤洗い:洗剤液(水2Lに台所用合成洗剤1.5mL)に2分間浸し、スポンジで洗剤液をつけて2分間こすり洗いをする。その後、流水で30秒すすぎ、水分をふき取る。
- 塩もみ:塩水(水2Lに塩20g)に2分間浸し、塩5gで2分間塩もむ。その後、流水で30秒すすぎ、水分をふき取る。
- ゆでる:果皮のみを水2Lに10分間浸し、熱湯1Lで10分間ゆでる。その後、流水で30秒すすぎ、水分をふき取る。
まとめ
輸入果物にポストハーベストとして使用されている「チアベンダゾール」。
防カビ剤の用途で食品添加物として認可されてはいますが、催奇形性などの危険性が報告されており、妊婦の方は特に避けた方が良い添加物と言えるでしょう。
ちなみに、チアベンダゾールはゆでることで効率的に除去できるため、輸入果物の果皮を使用する場合には事前に下ゆでをしておくと良いかもしれません。
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