ブロメラインをご存知でしょうか?
ブロメラインはパイナップルに含まれる成分で、様々な効果を有していることが研究によって確認されています。
最近ではがんや新型コロナウイルスに対する効果も示唆されており、有望な成分として注目されています。
本記事では、ブロメラインの概要や効果、摂取方法などを解説していますので、ぜひ参考にしてください。
ブロメラインとは?
ブロメラインとは、主にパイナップルに含まれるタンパク質分解酵素の1つです。
分子量約33,000、活性部位がシステイン(チオール)の”システインプロテアーゼ”に分類されるタンパク質分解酵素であり、アミノ酸のアラニン、ロイシン、リジン、アルギニンのC末側のペプチド結合を切断することでタンパク質やペプチドを分解します。
ブロメラインのタンパク質分解活性はシステインや硫酸水素塩、NaCN, H2S, Na2Sなどによって活性化され、有機水銀やHg2+、Zn2+、テトラチオン酸塩などによって可逆的に阻害されることが知られています。活性化の用途で使用される例としては、ブロメラインとN-アセチルシステイン(NAC)を組み合わせて使用した「BromAc」などが代表的です。
また、ブロメラインは熱に弱く、60℃以上になると変性してタンパク質分解酵素としての機能が発揮されにくくなります。具体的には60℃で30分間処理すると活性が元の半分程度に、70℃で15分間処理すると活性が元の9~22%程度に、100℃で10分間処理すると完全に失活することが確認されています。
ちなみに、ブロメラインはパイナップル中の葉や茎、果実、果皮など様々な部位に含まれていますが、特に茎と果実に多く含まれており、茎に含まれるものはステムブロメライン、果実に含まれるものはフルーツブロメラインと呼ばれています。
ステムブロメラインとフルーツブロメラインの違いについては以下の通りです。
ステムブロメライン | フルーツブロメライン | |
EC番号 | EC 3.4.22.32 | EC 3.4.22.33 |
由来 | パイナップルの茎 | パイナップルの果実 |
分子量 | 23.8~37.0 | 23.0~32.5 |
等電点 | >9.5(塩基性タンパク質) | 4.6(酸性タンパク質) |
アミノ酸残基数 | 212, 291, 285 | 326, 351 |
至適温度(℃) | 40~60 | 37~70 |
至適pH | 5.5~8 | 4~7 |
糖鎖の有無 | 有 | 有/無 |
【参考】
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyoyobukiyo/2023/53/2023_2/_pdf/-char/ja
ブロメラインの作用・効果
ブロメラインには数多くの作用・効果が確認されているので、その中でも主なものについて以下で解説していきます。
食べ物の消化をサポートする効果
ブロメラインはタンパク質分解酵素であり、タンパク質を消化する働きがあるので、食べ物の消化をサポートしてくれます。
また、胃液の分泌を促す働きもあるため、それによっても食べ物の消化をサポートしてくれるでしょう。
実際、ブロメライン配合のサプリメントの説明には食後にスッキリしたい方や、食後が気になる方におすすめとの表記が多くなっています。
抗炎症作用
ブロメラインの作用の中で最も顕著なものは抗炎症作用です。
ブロメラインには様々な炎症性メディエーターを減少させる働きがあり、それによって抗炎症作用を発揮することが確認されています。アレルギー性気道疾患(AAD)、変形性関節症を含む関節炎、炎症性腸疾患を含む結腸の炎症、副鼻腔炎などにも効果的のようです。
また、終末糖化産物の受容体を分解することで終末糖化産物による細胞の損傷を軽減し、炎症を抑制することも確認されています。
ちなみに、抗炎症作用に伴って痔や浮腫、傷の治りを早める働きもあり、痔に関しては実際に「ヘモナーゼ配合錠」という薬にブロメラインが配合されています。
抗菌作用
ブロメラインは抗菌作用があるのも1つの特徴です。
ブロメラインは大腸菌やコレラ菌などの細菌に対して抗菌活性を示し、下痢などの症状を防ぐ効果が確認されています。
また、ブロメラインはin vitro試験において、Trichuris muris、Trichoderma viride、Heligmosomoides Polygyrusを含む胃腸線虫に対して抗蠕虫活性を示したことも報告されており、多くの腸内病原菌に対して抵抗性を示すことが示唆されています。
抗血栓作用
ブロメラインには抗血栓作用も確認されています。
ブロメラインの抗血栓作用には複数のメカニズムが報告されており、主なものについては以下の通りです。
- 血栓形成プロセスの中間体である第X因子とプロトロンビンを減少させ、線維形成を促進することでフィブリンの生成を抑制する
- プロトロンビン時間(PT)と部分トロンボプラスチン誘発時間(APTT)を延長させる
- プラスミノーゲンからプラスミンへの変換を促進し、フィブリン分解による線溶の増加をもたらす
- 血小板の凝集を抑制する
実際、ブロメラインは狭心症や一過性虚血発作の重症度を最小限に抑えたり、狭心症の発作を抑制して高血圧症の症状を改善したりするなどの報告もあります。
飛蚊症の改善効果
硝子体のコラーゲンが凝集し、視界に黒い斑点や糸状のものが見える症状を飛蚊症といいますが、ブロメラインはこの飛蚊症を改善させることでも有名です。
2019年に台湾で行われた研究では、パイナップルを3か月間食べ続けたところ、約70%の人に飛蚊症の改善効果が見られたという報告があります。この研究ではパイナップルの量別のデータも出ており、100gのパインで54.5%、200gのパインで62.5%、300gのパインで69.8%の人に改善効果が見られ、量が増えるほどその効果も大きくなることが確認されています。
目を酷使することの多い現代は飛蚊症になりやすい傾向にもあるため、飛蚊症で悩んでいる場合にはブロメラインを摂取してみると良いかもしれません。
ただし、100g~300gのパイナップルを長期的に食べるのは難しいこともあるので、飛蚊症を改善する目的であればサプリメントなどで摂取してみると良いかもしれません。
ちなみに、ブロメラインとパパイン、フィシンを含むカプセルを摂取した研究でも、同様に飛蚊症の改善効果が確認されています。
【参考】
1) Chi-Ting Horng, Fu-An Chen, Daih-Huang Kuo, Li-Chai Chen, Shou-Shan Yeh, Po-Chuen Shieh. Pharmacologic vitreolysis of vitreous floaters by 3-month pineapple supplement in Taiwan: A pilot study. Journal of American Science 2019; 15(4) http://www.jofamericanscience.org
2) Ma JW, Hung JL, Takeuchi M, Shieh PC, Horng CT. A New Pharmacological Vitreolysis through the Supplement of Mixed Fruit Enzymes for Patients with Ocular Floaters or Vitreous Hemorrhage-Induced Floaters. J Clin Med. 2022 Nov 13;11(22):6710. doi: 10.3390/jcm11226710. PMID: 36431188; PMCID: PMC9695351.
3) Masaru Takeuchi, Po-Chuen Shieh, Chi-Ting Horng. Treatment of Symptomatic Vitreous Opacities with Pharmacologic Vitreolysis Using a Mixure of Bromelain, Papain and Ficin Supplement. Appl. Sci. 2020, 10(17), 5901; https://doi.org/10.3390/app10175901
新型コロナウイルス感染症、及び新型コロナウイルスワクチン後遺症への効果
最近の研究でブロメラインは新型コロナウイルス感染症、及び新型コロナワクチン後遺症に対して効果が期待できるという結果も出ています。
新型コロナウイルス(SARS-VoV-2)には構造中にスパイクタンパク質と呼ばれる部分があるのですが、ブロメラインはこのスパイクタンパク質を分解することが報告されています。そのため、スパイクタンパク質を介した新型コロナウイルスの感染や、スパイクタンパク質に起因するワクチン後遺症に対して効果が期待できると言われているのです。
また、ブロメラインとN-アセチスシステインを組み合わせた「BromAc」についても、スパイクタンパク質とエンベロープタンパク質のジスルフィド安定化架橋を還元してアンフォールディングを誘導すること、そして新型コロナウイルスの複製能力を不活化することで新型コロナウイルスの阻害効果を示すことが確認されています。(BromAcは複雑な糖タンパク質の構造を変化させる作用があるため、粘液性がんを対象として臨床開発中です)
そして、ピーター・マッカロー博士によって提唱された「スパイクタンパク質の解毒法」に記載の3つの天然成分(ブロメライン、ナットウキナーゼ、クルクミン)中の1つに入っているなど、新型コロナウイルス感染症、及び新型コロナワクチン後遺症に対して効果が期待できる有望な成分となっています。
【参考】
1) Sagar S, Rathinavel AK, Lutz WE, Struble LR, Khurana S, Schnaubelt AT, Mishra NK, Guda C, Palermo NY, Broadhurst MJ, Hoffmann T, Bayles KW, Reid SPM, Borgstahl GEO, Radhakrishnan P. Bromelain inhibits SARS-CoV-2 infection via targeting ACE-2, TMPRSS2, and spike protein. Clin Transl Med. 2021 Feb;11(2):e281. doi: 10.1002/ctm2.281. PMID: 33635001; PMCID: PMC7811777.
2) Akhter J, Quéromès G, Pillai K, Kepenekian V, Badar S, Mekkawy AH, Frobert E, Valle SJ, Morris DL. The Combination of Bromelain and Acetylcysteine (BromAc) Synergistically Inactivates SARS-CoV-2. Viruses. 2021 Mar 6;13(3):425. doi: 10.3390/v13030425. PMID: 33800932; PMCID: PMC7999995.
3) Peter A. McCullough, M.D., M.P.H, Brian C. Procter, M.D. Clinical Rationale for SARS-CoV-2 Base Spike Protein Detoxification in Post COVID-19 and Vaccine Injury Syndromes.
4) Panagiotis Kritis, Irene Karampela, Styliani Kokoris, Maria Dalamaga. The combination of bromelain and curcumin as an immune-boosting nutraceutical in the prevention of severe COVID-19. Metabolism Open
Volume 8, December 2020, 100066.
抗がん作用
ブロメラインはいくつかの癌腫において、in vitro、及びin vivo試験で抗がん作用を示すことが最近の研究で確認されています。
ブロメラインの具体的な抗がん作用のメカニズムについては以下の通りです。
- 細胞毒性増加
- アポトーシス(プログラム細胞死)活性化
- フェロトーシス(鉄依存性細胞死)活性化
- オートファジー活性化
- 免疫制御
- 抗炎症
- 血管新生阻害
- 浸潤阻害
このことから、ブロメラインの摂取はがんの予防・改善につながる可能性があることが示唆されています。
しかし、実際に人に対する臨床試験はまだ行われていないので、更なる詳細な研究が行われることに期待です。
【参考】
Pezzani R, Jiménez-Garcia M, Capó X, Sönmez Gürer E, Sharopov F, Rachel TYL, Ntieche Woutouoba D, Rescigno A, Peddio S, Zucca P, Tsouh Fokou PV, Martorell M, Gulsunoglu-Konuskan Z, Ydyrys A, Bekzat T, Gulmira T, Hano C, Sharifi-Rad J, Calina D. Anticancer properties of bromelain: State-of-the-art and recent trends. Front Oncol. 2023 Jan 9;12:1068778. doi: 10.3389/fonc.2022.1068778. PMID: 36698404; PMCID: PMC9869248.
ブロメラインの摂取方法
ブロメラインは食事やサプリメントから摂取できます。
ブロメラインはパイナップルに多く含まれているので、食事から摂る場合にはパイナップルを食べると良いでしょう。
ただし、先ほど説明した通りパイナップルを長期的に食べることは難しいこともあるので、そのような場合にはサプリメントから摂取するのがおすすめです。
ブロメラインのサプリメントは商品によって配合量や酵素活性が様々なので、自分の好みに合わせて選ぶと良いでしょう。ただし、摂り過ぎると便が緩くなることもあるので、そのような場合には少し配合量の少ないものや活性の低いものなどを選ぶと良いかもしれません。
ちなみに、ブロメラインの標準使用量は経口投与で1日あたり500mgとなっており、サプリメントの場合にはこの含有量のものが比較的多くなっています。
ブロメラインは経口でも体内に吸収される?
ブロメラインはタンパク質分解酵素でありながら自身もタンパク質であるため、経口摂取しても体内で分解されてしまうと思われている方も多くいるかと思われます。
しかし、未分解のブロメラインが吸収されている可能性を示唆する報告があるのも事実です。
例えば、19人の健康な男性を対象にした試験では、1日あたり3gのブロメラインを経口で複数回に分けて投与したところ、48時間後までに血漿濃度が5,000pg/mlに達していることが確認されており、3~51時間の間で平均10.8µgのブロメラインが血漿中に存在していたことが推定されています。また、このブロメラインは生物学的な活性を少なくとも部分的に保持していたことも確認されています。
このように、未分解のブロメラインが体内へ吸収され、なおかつ部分的に活性を保持していることは試験においても確認されているのです。
ブロメラインのサプリメントを摂取後、実際にその効果を実感できている人もいることから、ブロメラインは経口摂取しても体内へ吸収され、効果を発揮していると言えるのではないでしょうか。
【参考】
Castell JV, Friedrich G, Kuhn CS, Poppe GE. Intestinal absorption of undegraded proteins in men: presence of bromelain in plasma after oral intake. Am J Physiol. 1997 Jul;273(1 Pt 1):G139-46. doi: 10.1152/ajpgi.1997.273.1.G139. PMID: 9252520.
ブロメラインの副作用は?
現在のところ、ブロメラインに重篤な副作用などは確認されていません。
ただし、ブロメラインを摂取する場合には以下のような注意点があるので、注意点を把握したうえで摂取するようにしましょう。
- ブロメラインはプロトロンビン時間と部分トロンボプラスチン時間を増加させることから、出血リスクが高まるので、ワーファリンなどの抗凝固薬を服用している場合には注意が必要。
- ブロメラインの含有量が多いものや活性の高いサプリメントを摂取すると胃腸に不調をきたすこともあるので、その場合には含有量の少ないものや活性の低いものを摂取すると良い。
- パイナップルアレルギーの場合はアレルギー反応が出ることがあるので注意が必要。
また、ブロメラインは抗生物質(テトラサイクリン、アモキシシリンなど)、化学療法剤(5-フルオロウラシル、ビンクリスチンなど)、ACE阻害剤(カプトプリル、リシノプリルなど)、ベンゾジアゼピン系薬剤、特定の抗うつ剤、オピオイド、バルビツール酸塩などの薬剤の吸収を高める可能性があり、医師の指導が必要な場合もあるので、その点についても注意が必要です。
【その他の参考文献】
1) Vidhya Rathnavelu, Noorjahan Banu Alitheen, Subramaniam Sohila, Samikannu Kanagesan, Rajendran Ramesh. Potential role of bromelain in clinical and therapeutic applications (Review). Biomedical Reports, July 18, 2016 https://doi.org/10.3892/br.2016.720
2) Agrawal P, Nikhade P, Patel A, Mankar N, Sedani S. Bromelain: A Potent Phytomedicine. Cureus. 2022 Aug 11;14(8):e27876. doi: 10.7759/cureus.27876. PMID: 36110474; PMCID: PMC9463608.
3) Varilla C, Marcone M, Paiva L, Baptista J. Bromelain, a Group of Pineapple Proteolytic Complex Enzymes (Ananas comosus) and Their Possible Therapeutic and Clinical Effects. A Summary. Foods. 2021 Sep 23;10(10):2249. doi: 10.3390/foods10102249. PMID: 34681298; PMCID: PMC8534447.
4) Hikisz P, Bernasinska-Slomczewska J. Beneficial Properties of Bromelain. Nutrients. 2021 Nov 29;13(12):4313. doi: 10.3390/nu13124313. PMID: 34959865; PMCID: PMC8709142.
5) Pezzani R, Jiménez-Garcia M, Capó X, Sönmez Gürer E, Sharopov F, Rachel TYL, Ntieche Woutouoba D, Rescigno A, Peddio S, Zucca P, Tsouh Fokou PV, Martorell M, Gulsunoglu-Konuskan Z, Ydyrys A, Bekzat T, Gulmira T, Hano C, Sharifi-Rad J, Calina D. Anticancer properties of bromelain: State-of-the-art and recent trends. Front Oncol. 2023 Jan 9;12:1068778. doi: 10.3389/fonc.2022.1068778. PMID: 36698404; PMCID: PMC9869248.
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